俺たちのガースー、丸腰訪米首脳会談の憂鬱【山本一郎】
【連載】山本一郎「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」
■再生エネルギーへの転換は日本経済の衰退を加速させる!?
一方で、洋上風力発電や太陽光発電のような新エネルギーの比率を高めたいという話はありますが、これも、いわゆるベースロード電源のように定常的に安定した発電量を確保することがむつかしく、期待される洋上風力発電もいつも発電力が期待できる風が吹くのは秋田沖に限られるという日本独特の風向き事情があって、あまり現実的ではありません。
そうこうしているうちに、この非効率な再生エネルギーの発電シェアを高める目的で、一般家庭においてもそれなりの電気代の値上げが現実的なものになってきました。しかも、これは一過性のものではなく、再生エネルギーの発電シェアが上がれば上がるほど、火力発電所の発電コストよりもはるかに調達コストが高い以上はどんどん値上がりしていきます。
◆再生可能エネ普及への電気料金上乗せ額 1000円以上値上がりへ | NHKニュース
実際には、再生エネルギーの調達単価が我が国で高くなってしまっている理由の一端は、福島第一原発事故の後始末に失敗した菅直人政権を退陣させる為に策定した問題のある調達ルールに加え、当時のソフトバンク孫正義さんらが要求して実現させた太陽光発電などの破格の価格設定が通ってしまい、あまりにも太陽光が儲かるので多くの事業者が行った駆け込み申請を認定した分が、10年越しのいまになって国民負担として実現してしまったという現実があります。政府が馬鹿だと国民が貧乏になる構図はいまに始まったことではありませんが、結果論とはいえ、旧民主党政権が遺した負の遺産はエネルギー政策においても大きく影を落としていることはもっと広く理解されるべきです。
そして、今回の日米首脳会談でアメリカに行く総理・菅義偉さんは、こういう事情を知ってか知らずか、30年までの再生エネルギーへの転換を約束させられて帰ってくる可能性が高くなっています。
もちろん、日本が先進国として責任をもって二酸化炭素を含む温室効果ガスの削減を推進するのは間違った政策とは言えません。しかしながら、例えばあと9年足らずで二酸化炭素を減らすために「再生エネルギー比率を2030年までに50%にする」と言われても、日本の風も吹かないエネルギー事情からして極めて厳しい実現見通しであることは言うまでもありません。
そうなれば、ガソリンで走る車もEV(電気自動車)にしようとなったとして、日本が国内道路事情を考えて発展させてきた省エネ性の高いHV(ハイブリッド車)はどうなるのか、また、EVにすべての車を寄せるとしてもその電源は結局火力発電所や原子力発電所が生み出すベースロード電力に依存することになれば、日本全体のエネルギー効率はより悪くなります。
世界的な気候変動に対して努力目標を設定して持続可能社会を実現するためにどうするかは難題ですが、いま見えている課題にたいしてすら解決できるめどが立っていないのに、菅さんがアメリカに行って何を約束させられて帰ってくるのか、心配で仕方がありません。
文:山本一郎
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